トマラナヰカゼ


日記│ 序章一章二章
七月十五日

「俺と」シリーズ第一回

「俺とkey」


 僕のなかにあるkeyについての歴史を語るというとき、一体どこから語ればいいのかというのは迷うところで、いろいろ考えてみたけれど、どうも入りの部分が表面的な思い出語りに終始してしまってよくない。高校時代の僕がkeyについて考えていたときというのは、知識も能力もゼロに等しかった僕が精一杯の背伸びをしようとしていたのだと思う。思い返してみれば、感想ではなく評論(のようなもの)をネット上で探し始めたのも、あのころのはずだ。難解なストーリー構造の「Air」に翻弄された僕は、クリア後に僕の中で生まれた感動を、具体的に説明してくれる言葉を求めていろいろと読み漁った。結局、当時はそういった評論を理解できるほどの読解力もなく、結論や小見出し的な部分をトリビア感覚で吸収するだけだったのだけど。こういう風に啓蒙されて読解本や評論を読み漁るというのは、僕と同年代か少し上の世代ではエヴァンゲリオンで経験したことなんじゃないだろうか。僕の場合は、それが「Air」であったわけだ。もしくは、それはkeyであった。
 高校二年で僕が掲げた目標は、「新たなクラスで新たな友達を作らない」というものだった。なんてハードボイルドなんだろうか。でもこれは、その時同じクラスになった友人が一年のときに達成した偉業であって、僕はそれがなんだか格好よさそうだったので真似しただけだった。高校の僕にとっては、クールというのはそういうことだったのだ。ちなみにその友人は、二年では同じクラスにだったけど、そいつとは普通に遊んでいた。だもんだから、僕ら二人はクラスから浮いていたし、もう一人、そのクラスには背が高くて天然パーマで動きの奇妙な男がいて、そいつも浮いていた。当然のなりゆきで僕ら三人は、クラスのなかで浮いていた。嫌われていたわけではなく、ただただ没交渉的な関係が続いた。だもんだから、修学旅行の部屋割りでは自然にこの三人が同じ部屋で寝ることとなった。行き先は沖縄で、当時は飛行機テロか飛行機ジャックか何かが起きていて物騒だったので修学旅行を中止するか決行するか揉めていた気がする。結局は決行した。例の友人は世間で騒がれていたテロだかジャックだかを「まんまフルメタじゃないか」と軽く流すような態度をとっていて、それがまた当時の僕にとってクールに映ったのだが、今は別にそんなこともない。それで沖縄のホテルで泊まっていて、ようやくこの修学旅行の話でkeyの話に触れるのだけど、それはまあ一瞬で終わる話で、夜に三人で部屋のテレビを見ていたとき、ちょうどしゃべり場がやっていて、テーマが確かオタクで、オタクの休日、みたいなコーナーがあって、オタクのしゃべり場戦士がすごく嬉しそうに「今日発売のゲームを買いに行くんですよぅ」と言ってPS2版「Air」を買いに行く場面があって、僕の友人は腹を抱えて笑っていた。その直後に、NHKの電波で観鈴がしゃべっている場面が映し出されて、僕ら二人はさらに笑った。もう一人はkeyを知らなかったので、ちょっと必死そうに「ねえ、なに、なに? なんで笑ってるの?」と僕らに何度も訊いてきたが、説明するのが面倒なので説明はしなかった。という思い出だけで二枚も使ってしまった。別にだからどうということもなくて、そんな風に僕の高校生活の思い出のなかには、さまざまな形でkeyが根付いているということが言いたかった。ということにしておく。他に、「Kanon」のクライマックスの台詞と文章をすべて暗記していて、感情のこもった語りを毎日披露する愛すべき友人がいたことや、僕が部活の先輩たちから「Kanon」のメインヒロインと同じあだ名で呼ばれていたこととか、気まぐれに「Air」を薦めた先輩が本編をやらずに「感動したよ!」とよくわからないことを言って僕に迫ってきて先輩たちから「アイツはホモだから仲良くしないほうがいいぞ」と注意されたりしたことや、修学旅行前日の深夜にkey公式ページで「CLANNAD」の情報が発表されて徹夜で情報収集し、集合場所の空港で友達に延々といかに「CLANNAD」が素晴らしいゲームであるかということを想像力だけで語っていたことや、イチゴサンデーを探して喫茶店やアイス屋やケーキ屋をいくつも回ったことや、まあとにかくそんなことが他にも山のようにある。「Air」のトレーディングカードを箱買いして、その数ヵ月後に虚しくなって後輩にタダであげたこととか。
 熱に浮かされていたなあ、と思う。ただその熱量が形となって結実することはほとんど、というか皆無だったかもしれない。僕が高校生だった当時というのは、「QOH」や「魔物ハンター舞」なんかで有名だった、渡辺製作所の全盛期(のように僕は思う)だった。なんだかそのころは同人ゲーム(特に対戦格闘)の体験版をネットでよく見かけるようになった。そのうちのほとんどは、完成することなくぽしゃったのだと思うけど、実際には体験版までたどり着くことなく、それ以前の工程で企画倒れとなった同人ゲームは星の数ほどあったのだと思う。というかまあ僕とか友人がそのあたりの部類に属する人間だったわけで、やはりご他聞に漏れず「Kanon」や「Air」で感動し、「Kanoso」や「あゆちゃんパンチ!」をプレイするにいたって、「俺たちもゲームを作ろう!」となったり、友人の友人がCD−Rに焼いた神藝工房のMADムービーを見て、「俺たちもムービーを作ろう!」となったり、まあそういう瞬間的な熱を口から放射して後には出がらししか残らない、みたいなことが多々多々あった。高校時代はそんなことの連続だったなあ、とついついため息をつきながら思い出す。
 僕の高校時代にタイトルが発表され、浪人時代には発売が一年先送りになり、大学に入学した年にようやく発売された「CLANNAD」は、発売日に買った友人から上手いこと入手し、4,5日間ほぼぶっつづけでやりこんでクリアした。クリアしてから一週間くらいは、人生っていいな、家族っていいな、と夢うつつの瞳で虚空につぶやいていた気がする。や、書いててちょっと言い過ぎたと思ったけど、「Air」のときにもやっぱりそんな風になっていたし(クリア直後には、なぜか友人に感謝のメールを長文で送っていた。そしたら友人も長文のメールで返信してくれた。なんつうか、美しい友情ね)、なんていうか、ちょっと気持ち悪いくらいがちょうどいいことって、ある、よね。
 それで「CLANNAD」ですが、ゲームのほうは全然エロくないというか全年齢推奨なんですが、京アニ製作のアニメのほうがエロくてですね、具体的には風子の足がエロくてですね、僕がニコニコ動画にコメントを残したのは後にも先にも風子の足についてだけなくらいエロい感じがするわけで、きっと京アニが月吉ヒロトの漫画をアニメ化したらものすごいことになるに違いないと僕の背筋を寒くしたことでも有名な京都アニメーション。そういえば「Kanon」のアニメは見てない。「Air」は当然見ましたよ。「Kanon」もそのうち見ますってばさ。
 それで「CLANNAD」ですが、僕のkey体験はそこで止まっているわけですよ。「planetarian」とか「智代アフター」とか「リトバス」とか全然やってないわけですよ。(どうでもいいですがキネティックノベルって何だったんでしょうね)いまさらそれらをやるのも億劫なので、たぶん一生やらないままと思いますが、「リトバスエクスタシー!」はタイトルが阿呆くさくて嫌いじゃないですよ。やらないと思いますけどね。
 だからつまり僕にとってのkeyというのは「Kanon」から「CLANNAD」――より正確に言えば、「MOON.」から「CLANNAD」ということになるわけです。エヴァとか見てなかった僕は、「MOON.」のストーリーに度肝抜かれたというか、正直わけわかんなかったし、覚えてるのはヒロインが野外で放尿したことを自分の分身みたいな人に告白して「これでこの段階の修行は終わりです」みたいに言われてたこととかで、当時はかなり引き気味に見てましたが、今思い出しても引きますねこれ。「ONE」はOVAが酷かったことばかりが思い出さますよ。本当に酷かった。OVAが発売しだしたのも高校時代だし、「CLANNAD」はちょっと例外だけど、やはり基本的にはkeyを語りだすと高校時代の話ばかりになって、あのころは演劇部でもなんだかとっても駄目な部員だったし、授業もよくサボっていたし、それでもエロゲーはけっこうやっていた気がするのだから、へこむ話です。自分、あの時なにをやっていたのか。まあ、エロゲーやっていたわけですが。「keyにエロは不要なんだよ! ゲームに大事なのは物語だ!」と妙に熱く語っていた自分が懐かしい。エロ見たさの自分を必死に正当化していたというか、「物語だ!」と言いながらエロに特化したエロゲーもやっていたわけですからね。「物語だ!」とか言ってるわりに、物語について何もわかっていなかったしね。そんなに「Kanon」や「Air」が好きなら、「Kanon」や「Air」みたいなお話を書いてみろって話ですが、高校時代にまともに最後まで書いた小説って一本もなかったはず。同人誌作るわけでもなかったし、実際の行動からは一定の距離を保とうとしているところが馬鹿ですね。駄目でもともとやってみればいいのにね、高校生なのだから。「KanonRPG」をやってRPG作りたくなったら作ればよかったのだし、「EFZ」をやって格ゲー作りたくなったら作ればよかったのだよ。それが実際にはまったく作らないで、「でもいつか作るぞ」なんて間の抜けたことを考えていたわけですから、高校時代、僕は相当に頭の悪い子供だったのですよな。今に至るまでそれは変わらないって気がすごいするんですがな。無駄に歳だけ重ねているような。気がつけば今年で24であり、24である僕が高校時代のkey体験について語るというのはなんとみっともないことなのだろうか。あといまさら気づいたけど、高校時代に「Kanon」とかやってたらまずいな! 年齢的に!




五月十四日

その日はたった一つの授業のために大学に出向く必要があったのだけど、そのたった一つの授業に一時間も遅刻したわけで死にたくなるのもやむなきことかな。
「前見て歩け、クソガキ!」
自分よりも明らかに若い声にそう言われて、若い奴はいいこと言うなあ、なんて思って俯いていた顔をあげて歩くわけ。




五月十三日

むかし、僕は学生で、友達にちょっと好きな女の子がいて、その子が落ち込んでいるときにメールで励ましてあげたことがあった。しかし、女の子からの返信には「ありがとう。でも大丈夫だよ。今の私には、私を支えてくれるとっても大切な人がいるから。とっても大切な人が…」(二回繰り返した!)といったことが書いてあり、それを読んだ僕は、ひどい鬱に悩まされたものです。
――あれから十数年が経ち、僕にも「私を支えてくれるとっても大切な人」ができました。
その人は、僕に「感想」という名の愛を与えてくれます。

(あるゲームクリエイターの遺稿より)




4月27日

電車に乗っていて本を読んでいると、ふと視界の端に女子小学生が二人いた。すぐ目の前にいたんだけど、本を読んでいて顔が下を向いていたので今まで気づかなかったみたい。で、以前から友人が「やっぱ小学生だって」「肋骨の浮かんだおなかとか最高じゃない」「小学生と結婚したい」と熱く語っていたのを思い出したので、果たしてそんなにいいものなのかな、と興味本位で本を読みながら二人の女子小学生をチラ見してみる。その邪悪な意思に気づいたのか、穢れた視線を感じたのかは定かでないけど、二人とも即座に僕の視線に気づいてすごい睨んできたのが本当に怖かった。

「っていうことが昨日あったんだけどさ、そんなことよりも昨日のマクロスF見た?」
「見た見た。でも俺としては、島本和彦『アオイホノオ』を居酒屋の隅っこで焼酎ちびちびやりながら読んだときの話が気になる」
「そういうのはどうでもいいんだよ。大事なのは、シェリル派なのかランカ派なのか。その一点に尽きる」

トリコロ特捜版はいつ再販されるんだろうか。されないのだろうか。
そんな悩みを抱えながら、今日も彼は通勤電車に揺られる。女子高生のスカートに伸びかけた彼の右手を、彼の左手は寸でのところで押しとどめた。
4月10日

 午前二時。刹那的に心が苦しくなったので、中島みゆき「世情」をかけながら今日はもう床につこうと思い、ニコニコで検索してみたら、「世情」が金八先生の挿入歌だと知って何故かますますアンニュイな気分に。
 寝るにはこのくらいのテンションがちょうどいいのかもしれない。
 もうPC落として寝ます。
 おやすみなさい。
4月2日

 ぼへー。
 エロ同人誌みたいな出来事とか、現実に起きないのかなー。
 起きたらいいのになー。
 くぺー。
4月2日

 なぜ僕は、そして貴方たちは、エイプリルフールに小粋で気の利いた嘘(フェイク)がつけないんだい。なぜなんだい。本当かい?
 そしてまた、なぜ僕や貴方たちはバイト先の同僚に誘われる飲み会を断ることができないのか。いいことなんて一つもないのにさ。ありゃしないのにさ。それでも断ることができないなんて、そこまでして何を求めているんだい。
3月29日

 いつまでも穴の開いた靴でコンビニの接客をやるのはよくないぞ、と乾坤一擲一発奮起。「新生活フェア」の文字が踊る商店街に、靴を買いに行きました。

「おい君、そこの店員君。この靴、いいじゃない」
「さすがお客様、お目が高い。この靴は選ばれた者にしか履くことができない靴でして、この靴をお客様が選んだということは、それ即ち、お客様がこの靴の所有者として相応しいと、この靴自身が認めたということなのです。ささ、どうぞお試しに履いてみてください。サイズはいくつにしますか?」
「26か、26.5で」
「かしこまりました。ささ、こちらが26サイズです」
「ちょっときついなあ」
「では、こちら26.5のサイズをお試しください」
「あ、これは丁度いいよ。まるで全身に力がみなぎってくるようだ」
「そうでございましょう。なにしろ選ばれし者の靴ですから」
「よし、これください」
「ありがとうございます。新生活フェア特価で4200円になります」

 こうして、僕の新生活が始まった。

3月29日

「『ネムルバカ』超面白いですよね!」
「面白いよねー。あれは面白いよねー。でも短編集は糞だったよね」
「え、短編集も超面白いですよ!」
「え、あれはつまらないよ。どうでもいいよ」
「面白いですよ!」
「つまらないよ」
「ちょっとまってください。それはどっちの短編集ですか?」
「探偵のほう」
「あ、それはつまらなかったです」
「だよねー」
「ですよねー」

3月27日

 インフォシークからスンバラリアFC2に移転。
 新天地にて人が活きる道を模索す。

 《サイト跡地》
3月26日

 サイトを始める。
 二日酔いで一日中ぐんなり。
 『グーニーズ』観る。おもしれー。

書いてる人:夜明けの敵
開設:2008/03/26









inserted by FC2 system